武道館で会った人だろ。

涙の味を知る人の微笑みは美しい  豊島学由 


皆さんこんばんは。Perfumeを応援する市民の会新潟支部長のシンジです。



振り返ると、様々な想いが去来します。
昨年発表された楽曲「ポリリズム」までのPerfumeを取り巻く状況は、やがて訪れる嵐を前にした静けさだったのでしょうか。
アイドルポップとクラブミュージックとのアプローチ。双方が邂逅し、拮抗し、共闘し、到達した境地。まさにエレクトロの開拓に挑む精神と、自らのアイドルとしての自覚と矜持とが結実した瞬間を目撃するという幸運に我々は恵まれる事となりました。
11月6日と7日、2日間の日程で開催されたPerfume武道館興行、その名も『Budouaaaaaaaaaan!!!』
これまでPerfumeの動向を注視してきた方々にとって万感の想いであった事は想像に難くありません。同時に強い寂寥感を抱く人も多数存在した事でしょう。
今回の興行を観覧するにあたり、日程の事前調整が難航し、最後まで気の置けない状態が続きました。観覧のみならず、6と7両日の夜に同好人有志にて企画・開催されたアフターパーティーの主要構成員としての準備もあり、件の1日目の集いが終わるや否や始発の新幹線で新潟に一度帰還し、午前中の勤務が終了してから再度東京に戻り武道館興行を観覧。終了後に2日目の集いに参加するという、売れっ子演歌歌手の地方巡業もかくやというこれまでに類を見ない強行日程となりました。そのパーティーにつきましては日を改めて書きたいと思います。
以前にも書きましたが、後援会の優先枠にて観覧券を入手するも2階席、という状況に不満を隠せませんでしたが、これまでになく多くの方々、あまつさえ後援会加入者でさえ入手出来ない現状にあっては「入手しただけでも幸運」と思わざるを得ませんでした。
今回は券の注文時に「観たくても観られない」という人を1人でも多く救済する為2枚分を購入しました。その1枚は同じ新潟在住の女性に譲渡しました。「mixi」の新潟版、とも言うべき地方限定SNSがあり、そこにPerfume関連の文章を寄稿したところ、コメントを寄せたその方と意気投合。そのまま共に武道館興行に参加する運びとなったのです。ちなみに彼女(Mさん、仮名)は細かい所にも気配り出来る聡明な人です。なので今後、年末が近い事もありますので何らかのリアクションを起こそうかと考えてます。
7日当日、地下鉄東西線九段下駅に到着。地上へと上がる時点で早くも「チケット譲って下さい」という手書きの紙を持った女性の姿が。更に会場に向かって歩くと1人、また1人とチケット難民が。何とか出来るものなら何とかしてあげたい。さすがにその前を通り過ぎるのは何処となく心が痛みました。そしてお城の門を思わせる入り口まで差し掛かった時、会場へと進む人達に「チケット余ってたら買うよ」と声を掛ける3人程のジャージを着たオッサンがいます。そう、忌わしきダフィーです。オークションでの転売屋同様、こいつらの銭儲けのせいで純粋な多くのファンが歴史的瞬間に立ち会う事が叶わないなんて。冗談じゃなく、心底怒りがこみ上げてきました。連中の傍らを通り過ぎる刹那、心の中で叫びました「しねっ。キャバクラ嬢が寂しさ紛らわす為に飼ってる様なちいこい犬に咬まれてしねっ」
眼前に武道館の建物を望む場所にグッズ販売のテントがあり、現金のみならずカードでの支払いにも対応しているあたりにも人気が急上昇した現状の一端が垣間見えます。しかし私だけかもしれませんが、回を重ねる度に販売されている品物への興味が薄れていくのを感じます。何というか、こうしたグッズはコレクションとしての目的以上に「実用品」として使いたいというのが信条であって、昨今のグッズに自分の欲しいと思う物が無いのです。まぁエコロジーという言葉が喧しい状況を考慮しての箸というラインナップなんでしょうし、アイデアを出したPerfumeの3人に敬意を欠こうという訳ではありませんが、それよりも商品化が望まれる物はあるだろう、と思わずにはいられません。例えばロゴ入りマグカップやポスター、大判のカレンダー等。メモパッドやキャンディ、そして今回のTシャツには魅力を感じません。自画自賛と言えばそれまでですが、正直自分が製作したデザインは誰にも負けないと思っています。いやマジで。

結果、お約束のパンフレットと卓上カレンダーの2点を購入。そしてガチャポンの黄色いカプセルに入ったマスコットチェーンを3個。1個500円とはいい商売だなぁと言いかけて慌てて言葉を飲み込みました。
会場前で開演を待つ多数の中に知り合いを発見。同じ新潟遠征組のLSTDさんや、新潟支部のテクニカルアドバイザー宗像さん、『シークレットシークレット』のヴィデオクリップにおける宇多丸氏のコスプレでキメたGAIさん、「メガネは顔の一部ですか?」と思ってしまうくらい似合っているミロクさん、その他多くの愛すべきパフュームギャング達が期待と興奮に溢れた表情で歴史的瞬間を今や遅しと待ち受けています。
18時に開場となりましたが、指定席なのでこれまでの様に我先にと争うようにして並ぶ必要は無く、皆どこかゆったりとした入場。自分の観覧券の番号は「2階 J列 24番」という、これまでに2度最前列での鑑賞を経験しているだけに思わず気持ちが萎えてしまいそうな割り当て。そして自分の席から場内を見渡した際、その落胆は最高潮に達しました。


一瞬言葉に詰まりました。これまで武道館に足を踏み入れた事は無く、2階席から見る舞台上の演者はタミヤの35分の1スケールフィギュアの大きさくらいだろうと思っていた私の予想は見事に外れました。少なくとも衣装の形体等から3人がそれぞれ誰かという区別こそ可能ではあるものの、喜怒哀楽といった細かい表情は判別出来ません。遠方からの観覧を見越して持参した双眼鏡でようやく分かるといった有様。「Perfumeを双眼鏡で観なアカンて何やねん。わしゃ日本野鳥の会か!」
そうして開演の19時。場内の照明が落とされ、舞台上のスクリーンに映し出される映像には大いに瞠目させられました。白を基調としたスーツに身を包み、バイザー付きのヘルメットを装着してスペースポッドを操縦するPerfumeの3人。まさに「近未来テクノポップユニット」の面目躍如。最近の楽曲から、かつて自分が魅了された世界観やコンセプト、すなわち「プログラム」「テキスト」「エレクトリック」といった無機質なものをモチーフに描き出される未来都市、電脳世界の心象風景が抜け落ちてしまっている現状に物足りなさを感じていた私にとっては大いに溜飲の下がる想いでした。以下、演目一覧です。


1、コンピューターシティ
2、edge
3、エレクトロ・ワールド
【MC】
4、plastic smile
5、love the world
6、マカロニ
【MC】
7、Baby cruising Love
8、Take me Take me
9、Butterfly(衣装チェンジ)
10、GAME
11、シークレットシークレット
12、パーフェクトスター・パーフェクトスタイル
【MC】
13、セラミックガール
14、ジェニーはご機嫌ななめ
【MC】
15、チョコレイト・ディスコ
16、ポリリズム
17、Puppy love
【アンコール】(衣装チェンジ)
18、Dream Fighter
19、Perfume
20、wonder 2

出だしの「コンピューターシティ」では「♪絶対故障だ〜」の部分でエフェクトを使い、そのまま「edge」に移行するという変則技を展開。2階席からの観覧のハンデを補うかの様な巨大スクリーンの映像、会場内を交錯するレーザービーム、これはかつて我々がライブハウスで観た演出を完全にアップデートし、武道館という会場を活かしたPerfumeの新たなスタンダード、という気さえします。
そして「エレクトロ・ワールド」へと差し掛かった時、大本さんの様子がおかしい事に気付きました。最初の足を振り上げる仕草で、左足を庇うようにしているのが持参した双眼鏡を使わずともはっきりと認識出来ます。3人とも形は若干違えどもヒールの付いた靴を着用してのステージには誰もが危なっかしさを覚えるところです。おそらく照明が落ちて足元が見えなくなった拍子に挫いてしまったのでしょうか。果たして演目は継続出来るのか。大本さんの顔に苦悶の表情が浮かぶのか。序盤での予想外の展開に異様な緊張感が会場を支配します。
最初のMCでは武道館の天井部分に掲げられている日の丸に話が及び、西脇さんが「君が代」を歌いだします。場内の観衆も共に斉唱。ある種厳かな雰囲気となりましたが、「さざれ石の〜巌となりて〜」の部分まで差し掛かった瞬間、突然止めてMCに戻ってしまうという、武道館関係者、並びに右翼関係者涙目のマイクパフォーマンスを披露。更に別のMCでは観客に「(西脇)イェイェイェイェイェ!」「(観客)ウォウォウォウォ!」とTRFの「サバイヴァルダンス」の掛け合いで煽るという、会場を一つにする意味では定番とも言うべきチョイスでしょうが、時期が時期だけに笑ってしまうのに若干の逡巡がありました(笑)。小室氏やエイベックス涙目。MCにこれを盛り込むのは当初から予定されていたのか、はたまたタイムリーという事で急遽盛り込んだのか。もし後者だとしたら言わずもがな、西脇さんのエンターティナーとしての実力・素質は高く評価されて然るべきではないでしょうか。
こうした西脇さんのMCスキルを初めて目の当たりにした新規ファンのハアトを完全に掌握し、演目は「Butterfly」へ。ここで衣装換えとなりました。舞台上に3つのせり出し口があり、正面に伸びるボードウォーク(←ストリップ業界では『でべそ』と呼びます)の中心部分にもせり出し口が。続く「GAME」では白い衣装で登場。お馴染みのライトサーベルを振りかざすその姿には、これまで幾多の戦いや困難を乗り越えてきた「戦士」の風格が漂います。
観衆に向けてのコールやウェーヴ、舞台両サイドへの目配せ。かつて新譜の販促イヴェントにて曲を披露する際、畳3畳ほどの割り当てスペースで歌い「セマイドル」などと揶揄された過去など微塵も感じさせず、大きな舞台を持て余す事無く堂々と振舞う姿には、活動初期の、何処か浮遊した様な少女的なものから血肉を伴ったものへと変遷を遂げたのだと改めて実感させられます。
観覧券の配布、2階席という状況に不満を隠せないでいましたが、今回の興行は照明やレーザー、映像の演出という舞台構成を組み合わせた「総合芸術」なのであり、それら全てを俯瞰して観る事が出来たと考えると納得がいきました(←うち3割くらいは依然不満ですが)。
アンコール時のワードローブは新譜「Dream Fighter」のもの。最後に新曲を聴けるのか、と会場が色めき立ちます。最初このネーミングは如何なものかと思っていました。「なんか精通前の小学生が考えそうなタイトルだな」と。しかし歌詞がPerfumeのこれまでの道程を想像させるに余りある内容であり、その重みが曲に生命を吹き込んでいるような気がしました。それは聴いている我々の気持ちを鼓舞してくれるかの様です。
初期、中期の楽曲が相当数オミットされた今回の演目でしたが、「Perfume」の「パッパッパッパッ」と、鍋料理のシメの雑炊の如き「Wonder2」(←何だその例えは)を残していた事に安堵を覚えました。変わりゆくのもPerfume、変わらないものまたPerfumeだなぁ、と。
演目が全て終了し、会場に響くBGMがヴァン・ヘイレンの『Can’t stop lovin’ you』だったのには感心させられました。判ってるねーキミ。
コレ。↓

今回の武道館で多くの事を考えさせられました。まず多くの古くからのファンが思うところでしょうが、明らかに距離が遠くなった事。「Perfume」のYou!You!がアサルトライフルの5.56ミリ弾とするならば、こちらに着弾する時にはもう殺傷力を失っている、或いは着弾した事さえ確認出来ない、それほど遠い距離になってしまいました。文字通り「雲と雲の間を突き抜けて」手の届かない場所へ行ってしまったという拭い難い寂寥感、そして初期・中期の楽曲の更新。とにかく衝撃的だった「メジャー3部作」に代表されるアイドルらしからぬグルーヴ感、マスプロダクツ的アートワーク、ヴィジュアルイメージ、世界感。それらが一般大衆に迎合したスタイル、すなわち「恋した」「フラれた」といった内容に傾倒する事によって起こる個性の消失も有り得るでしょう(実際既にその様相を呈していますが)。
それと、かつて幾多のアーティストが同じ道程を経てきた様に、Perfumeの3人も「(曲・名前が)売れる」という経験を機に制御が効かないマスメディアや大衆社会の恐ろしさを嫌という程思い知らされる事になるのでしょうか。スタイルの変化よりも何よりも、いちファンとしてそれが心配です。
しかし同時に、以前に参加したライブ会場では180cmの私でさえも視界が充分でないと思うくらいなのに、160cm、またはそれ以下の女子はそれに加えて強烈な圧縮の中での観覧を余儀無くされていましたが、今後はこれまで来場が叶わなかった人達が安心して参加出来る。これまでのライブハウスでの興行での押し合いへし合いから開放され、それにより女性や家族連れも安心して観覧出来るようになった状況は大変喜ばしい限りです。
これだけの人気を博してくると、往々にして「アイドル」から「アーティスト」への移行(もしくは脱皮)という戦略を選んだりするものですが、今回のMCにおける西脇さんの発言からも分かるように、「アイドル」としての矜持を持ち続けているのがハッキリと伝わってきたのがとても嬉しく感じました。そして何年も変わらない方向性を打ち出してきた所属事務所と徳間ジャパンの懐の深さを感じずにはいられません。




日本のアイドルポップシーンが生み出した、ひとつの極北の光景を体験した想いを胸に会場を後にしました。


樫野さん、西脇さん、大本さん、本当におめでとうございます。そして、感動を有難う。



「そう、運命なんだよ」